いちねんくらい前のこと、ボクはこの世界から逃げ出そうとして、

いちねんくらい前のこと。
何が気に食わなかったのかはしらないが、ボクはこの世界から逃げ出そうとして、少しおかしくなっていた。本能に突き動かされたのか、俗に云う恋心だったのかは今になってもわからない。区別をつけようとも思わない。つけられるような気がしない。
だけど、いわゆる「そのようなもの」を駆動力として走り出したんだ。…くらいのことは云っても良いんじゃないかと思う。今になって思えば目的地のない迷走だったのだろうけど。
恋の謎が解けたのだと思ったし、あこがれた空に往けるのだと思った。しかし、人が人であることをやめることができないように、ボクがボクであることをやめることもまたできないものだ。相性というコトバで逃げてしまうのは簡単だけれど、責任とか時間とか期待とか、たくさんの重いものを支えきれるだけの強さがボクになかっただけなんだろう。ごめんなさい。
適性という残酷な現実を思い知らされて、失ったのは諸々の幻想、得たものはまだ舌先に残る苦い味の何か。今、対岸の人々をを見て、あこがれながら思うのは、どうしてみんなボクのように逃げずにいられるのだろうということだ。
この世界の人々は諦めたような顔をしてしかし、対岸を見ることをやめようとしない。そしてこの河を渡ろうともしない。期待しなければ楽になる。ボクもそうしていた方が良かったのか。
いちねんくらい前のこと、ボクはこの世界から逃げ出そうとして、果たせずに、まだここにいる。